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■百
空が紫色のベールを被り、東に白い月が浮く頃。
雰囲気を出すためか、明かりは提灯のみである。ここまで電車で来たのだが、駅からの道のりも街灯は燈されておらず、代わりに赤い提灯が吊られていた。
そして、その祭り独特の楽しげな喧騒の中で、男1人女3人と、やや大所帯に入るかもしれないグループがある。
「屋台も、これだけあると壮観じゃのう」
人数も揃っておるし楽しみじゃ、とそのグループの中の一人――瀬戸内・鷲羽(雪幻灯・b07408)は続けた。朝顔の柄が白地に鮮やかだ。手に持った団扇で、ぱたぱたと顔を扇いでいる。
ガラン、と隣で豪快に下駄を打ち鳴らすのは彼方霧・白蓮(ジャーマンアイリス・b06888)である。
「俺、こんなに沢山の屋台もこんなにでかい提灯も初めて見たよ」
白地に何故かヤシの樹柄の浴衣を着て、緑に淡いストライプの帯を締めた彼女は、真上の提灯を見上げた。
地元での夏祭り。言葉だけで気の弾む人も多いことだろう。白蓮の頭上の赤く大きな提灯はこの祭りのシンボルだという。本来、この土地を守ってくれている御神に感謝し舞踊や祈りを捧げるという行事らしい。花火はこの土地の名産だからだそうだ。屋台もこの祭りの客にのっとった物である。
言うまでもなく、本人たちは知る由もない。
「祭なんて久し振りだな。さ、楽しませてもらおうか」
パチン、と扇子を閉じて帯に挿す緒方・薔薇(月蝕歌舞ノ阿修羅姫・b19555)。紺色の水に身を浸す金魚の浴衣である。鷲羽と同じ白髪を、髪先と同じ色の薔薇の髪留めで纏めていた。
「…御祭り、楽しそう、ですよね…」
その後ろには微笑を浮かべる黒字に桜の浴衣の少女。彼女――七瀬・海里(高校生ファイアフォックス・b06189)は、ワクワクする心情を抱えながら、これから過ごす初めての祭りに思いを馳せる。
「まあ、祭りが楽しくないって人間もそうそういないだろうしな。さ、夏もそろそろ終わりだし、思いっきりはっちゃけるか!」
と伸びをするのは葉山・真之(黒炎纏う狩人・b07501)。彼は浴衣ではなく洋服で、やや統制が乱れているような気がしないでもないが、そんなことは祭りを前にすればもはやどうでもいいことだ。
…例え、その問題がまだやり終えていない夏休みの宿題だったとしても。
それぞれの思いを乗せて、祭りの時は廻る。
■花
集合が無事に出来たら、次は屋台の食べ物である。
面々はそれぞれ思い思いの食べ物を買おうとしていた。
「うん、それで――」
「あ、林檎飴だ!」
会話をしていた薔薇の言葉を遮って、猛烈に脈絡なく叫び第一目標の林檎飴の屋台に向かって歩いていく白蓮。
「…聞いちゃいねー」
「…気にしない方が、いいかと思います…」
いつものことだが、と顔をしかめる薔薇に、海里は苦笑をむける。ついでに薔薇は、白蓮に林檎飴が食い尽くされないことを密かに祈る。
「瀬戸内、行かないのか? 林檎飴なのに」
相変わらず鯛焼きを齧る真之が訊くと鷲羽は首を横に振った。一緒にアップにした白髪が揺れる。
「わしは好物は最後まで取っておく主義なんじゃ」
そう、林檎飴は彼女の好物。なのでそう言った後でも、白蓮の噛み砕いている林檎飴には、多少、というかかなり心惹かれるものがあった。
(…が、我慢じゃ…!)
鷲羽は今すぐにでも走って行きたい感覚を、屋台とは反対に歩くことでぐっと堪えた。いきなり動いた鷲羽に、4人は慌ててついて行く。ついて行きながら薔薇は、白蓮が買ってきた林檎飴が3本だったので、とりあえずホッとした。
「しかし…これだけ屋台が並んでいると壮観じゃて」
「…そう、ですね…」
幅の広い石畳の道の両脇に、人も多い上、屋台が所狭しと並んでいる様は、確かに壮観という言葉こそ相応しい。道の先などは、提灯の風流な灯りが僅かに視認出来るだけで、それ以外はすっかり闇に溶けている。
「…これだけ屋台があれば師匠も満足するだろう」
今日は恐らく、結社であの膨大な量を作らなくて済むと思うと、祭の楽しさも手伝って、つい足取りが軽くなる。薔薇がチョコバナナを食べながら、辛うじて前の真之に聞こえる程度に言った。今度は彼が苦笑する。
ちなみに当人はといえば、
「ふむ、火が足らんのう。少しどろどろしておるわ」
「ソースが染み込んでるー!?」
屋台を順に制覇していく鷲羽と、仲良く2人で買いに行ったたこ焼きの批評会を行っていた…。
「…皆さん、楽しそうです、ね…」
と、海里が美味しそうにふわふわの綿飴を食べながら微笑んだ。
■繚
「ふむ、これで一通り食ったかの…まあ腹八分とも言うし、これぐらいでええか」
「とても美味しかった…です」
「…腹の虫がオーケストラを指揮しとるわ…」
「流石だね、蓮ちゃん」
「…料理しなきゃ駄目なのか今日も」
上から鷲羽海里白蓮真之薔薇と喋った。約一名を除いて、大方満足したようである。
とにもかくにも時間的に、遊ぶなら今しか無理だ。飲食タイムは終わり、各々の興味は遊びへと移る。となれば、当然――
「「「金魚すくい、か」」」
鷲羽と白蓮と薔薇の息が、何故かぴったり合った。きょろきょろ辺りを見回すと、目当ての屋台へ向かっていく。
「? 真之、海里、やらんのか?」
屋台の親父にポイをもらいながら、2人がもらわないのに気付いた鷲羽がたずねる。
「いや、俺はちょっと遠慮しとく(なんかやらかしそうだ…)」
「あ…見ているのも好きなので…見てます…」
双方やんわり拒否した。すると何故か声にも出していないのに薔薇が、
「葉山さん、なんか言ったか?」
「別に何も?」
3人が水槽の片側に並ぶ。
「はっ」
薔薇がまず、手首のスナップを利かせて掬った。狙い違わず椀の中に金魚が落ちる。ポイも破れていない。見事な手並みに、思わず驚嘆する。
「じゃ、俺かな」
白蓮が誰に言うでもなく言って、ポイのふちの部分で金魚を跳ね上げる。それを椀で受けた。ぱしゃ、と軽い水音。
「最後はわしじゃの・・・そこじゃっ!」
ぼちゃ。
「……」
「「………」」
「「「…………」」
「頑張れ、瀬戸内」
「頑張って、下さい…」
「親父、もう一本くれ」
ポイを受け取り。
「次こそは…うりゃっ!」
どぼ。
「親父、もう一本」
その隣で何故かエスカレートして戦争が始まっている中、鷲羽は1人掬おうと頑張り続けたが。
「な・ん・で! 10回以上やって1匹も掬えんのじゃあぁぁっ!」
「それは、鷲羽さんが不器用すぎるからじゃないでしょううか…」
鷲羽の後ろで、海里が苦笑しつつ小声で的を得た…。
金魚は、2つあるうち片方の水槽からほぼごっそり消えうせた。屋台の親父にしてみれば、2人はほとんどポイを替えていないため、商売上がったりにも等しい。
「…君ら、頼むからもう帰って」
懇願する親父の声が、結社で飼おうと掬いまくっている師弟の間に消えた。
■乱
もうすぐ花火が始まる。
ついつい遊びすぎてしまったらしい、時間を確認して慌てふためいた一同は小走りに特別に設置されている見物場所へ向かおうとした。
だがこれだけの規模の祭りである。更に花火付きとなれば人の波も大きい。当然、思ったように進めはしなかった。
だが騒ぐのは大好きな白蓮、こういうことに関しての下調べだけは余念がない。
紫の頭が茂みから飛び出して顔を見せ、体が這い出た。
「ここだ!」
見物席よりも打ち上げ場所に近い河川敷。彼女らだけの特等席である。人がいないのは、誰もここに来る道のりを知らなかったから。花火が、ばしばしぱんぱんと頭や服に付いた葉を払う5人を一瞬照らす。
各々が座るなり立つなりして、空にともる華麗な燈を見上げる。
薔薇は立ったまま、色とりどりの火の華やかさを楽しむ。
(「幼馴染みも、これ見てたりしてな」)
昔、一度だけ祭りに来たときのことを思い描く。
白蓮は樹に背を預け、光の奇跡を吟味する。
(「綺麗だ」)
唯一親しかった兄と花火をしたことがあった。打ち上げは1つだったが、幼心にとても楽しかったのを覚えている。
花火が2つ、重なった。
立っている真之の瞳に髪に、淡く緑の光。
思い出すのは、去年の夏祭りのこと。
脳裏に描くのは、出逢った女のこと。
女の目と同じ色に、真之の目が戻る。
鷲羽は、焔の不思議を河川敷に腰掛けて見ていた。
「たーまやー…綺麗じゃのう。まさに最後に相応しい…」
昇り咲いては、必ず灼熱の雨となって降っていく様子が、灰色の目に映る。
海里は、草の上に座りじっと花開く焔を眺めていた。
他のことを思い起こそうにも、それに見とれてしまって出来ない。
(「また皆で御祭り、来たいですね…」)
目を細めて、彼女はそんなことを思った。
――帰り道。
「あぁぁあぁあ~~っ!! り、林檎飴…買うの忘れ、た…」
好物を逃し凹む鷲羽にも、それを必死で励ます仲間たちにも、銀波が優しく影を落としている。
夏が、別れを告げようとしていた。
念のためここにも。
・・・頑張った(真っ白
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(カテゴリ・美術室報告のところに載っているイラストの数々は、株式会社トミーウォーカーの運営する【シルバーレイン】の世界観を元に、株式会社トミーウォーカーによって作成されたものです。
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