無題

3/29　10：41、宇都宮市内、某ホテル――
何故ここに来ているかは言うまでもないだろう。
ともあれ、窓の蕎麦で彼女はまとめ片手にグラスを傾けていた。机の上にはパソコンと、イグニッションカード。すでに調整は終わったようで、イグニッションカードには甲冑――正確には甲冑姿の彼女――が描かれていた。
これが観光なら、さっきしたように居酒屋で親父さんに泣かれるまで散々飲み食いして程よく腹も膨れ、このまま気持ちよ～く寝てやるのだが。

チョーカーに縛られた首を上げ、夜空を仰ぐ。自分が身に付けた品々を眺めることで、自分を安心させ、また生きて帰ってくるという誓いを得る。
キーを叩けば目に入ってくる手袋。
その肩に重みを感じる着物。
右手首を拘束する腕時計。

「・・・ふぅ、よし・・・」

彼女はカフェオレを飲み干し、身体の動きの最終調整に入る。